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富山地方裁判所 昭和55年(ワ)288号 判決

原告(反訴被告)

上田敦子

ほか一名

被告(反訴原告)

高井俊雄

主文

被告は、原告澤田榮二に対し、金二八九、〇〇〇円及びこれに対する昭和五三年六月一日から支払済まで年五分の割合による金員を払え。

原告上田敦子の本訴請求、被告の反訴請求及び原告澤田榮二の本訴その余の請求をいずれも棄却する。

本訴訴訟費用は原告上田敦子と被告との間では原告上田敦子の負担とし、原告澤田榮二と被告との間ではこれを一〇分しその四を原告澤田榮二の、その余を被告の負担とし、反訴訴訟費用は被告の負担とする。

この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

第一申立

(本訴)

一  原告ら

1 被告は、

原告上田に対し、金四、一〇〇、三九一円及び内金三、六五〇、三九一円に対する昭和五三年六月一日から、内金四五〇、〇〇〇円に対する昭和五七年六月二二日から各支払済まで年五分の割合による金員を、

原告澤田に対し、金四六三、〇〇〇円及び内金四一三、〇〇〇円に対する昭和五三年六月一日から、内金五〇、〇〇〇円に対する昭和五七年六月二二日から各支払済まで年五分の割合による金員を、

それぞれ支払え。

2 本訴訴訟費用は被告の負担とする。

3 仮執行宣言。

二  被告

1 原告らの本訴各請求をいずれも棄却する。

2 本訴訴訟費用は原告らの負担とする。

(反訴)

一  被告

1 原告上田は被告に対し、金六七一、〇〇〇円及びこれに対する昭和五三年六月一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2 反訴訴訟費用は原告上田の負担とする。

3 仮執行宣言。

二  原告上田

1 被告の反訴請求を棄却する。

2 反訴訴訟費用は被告の負担とする。

第二当事者双方の主張

(本訴)

一  請求原因

1 交通事故の発生

(一) 発生日時 昭和五三年六月一日午前七時五〇分頃

(二) 発生場所 富山県中新川郡立山町西芦原六番地

(三) 加害車 普通貨物自動車(富一一は八七九六)(以下被告車という)

(四) 右運転者 被告

(五) 被害者 原告上田、普通乗用自動車(以下原告車という)運転中

原告澤田

(六) 態様

東西に走る公道を西進中の原告車前部とその北側から公道へ通じる私道から後退で公道に進出してきた被告車の後部とが衝突した。

(七) 結果

(1) 原告上田は、本件事故により、顔面挫創、右上肢両膝部打撲擦過傷、頸部捻挫、左膝関節内側々副靭帯損傷等の傷害を受け、昭和五三年六月一日から同月五日まで藤木病院に、同日から同年八月四日まで富山市民病院に、同日から同月一八日まで太田外科病院にそれぞれ入院し、同月一九日から昭和五四年二月九日まで太田外科病院へ通院し、その間昭和五三年一二月六日まで富山市民病院五福分院へ通院して治療を受け、昭和五四年四月一〇日、同年七月一六日、同年一二月四日、昭和五五年四月一四日の四回東京警察病院で顔面形成手術を受けた。しかし顔面及び右上下肢に著しい醜状瘢痕を残した。

(2) 本件事故により原告澤田所有の原告車は大破した。

2 責任原因

(一) 被告は、被告車を所有し、本件事故当時自ら運転して自己の運行の用に供していた。

(二) 被告は、被告車を運転し、前記私道から後退で公道へ進出してきたが、自車後方の安全の確認を怠りセンターラインを越えた過失により本件事故を発生させた。

3 原告上田の損害

(一) 治療費 金二、二七五、八四〇円

(1) 藤木病院 金一二八、七二〇円

(2) 富山市民病院(五福分院を含む)

金七八〇、五二七円

(3) 太田外科病院 金七五四、四八八円

(4) 東京警察病院 金六一二、一〇五円

(二) 付添看護費 金二一、〇〇〇円

入院期間中のうち昭和五三年六月一日から同月七日までの七日間付添看護を必要とし、一日当り金三、〇〇〇円を要した。

(三) 入院雑費 金四九、八〇〇円

昭和五三年六月一日から同年八月一八日までの入院期間中及び東京警察病院での四回の入院に関して雑費を要したが、その額は一日につき金六〇〇円である。

(四) 交通費 金一五〇、〇〇〇円

前記四回にわたる東京警察病院での治療のため富山と同病院間の交通費等に金一五〇、〇〇〇円を要した。

(五) 休業損害 金七七、六三九円

原告上田は、本件事故当時、訴外佐藤工業株式会社に事務職として勤務していたが、本件事故により昭和五三年六月一日から同年八月三一日まで欠勤し、そのため同年年末賞与において金七七、六三九円の欠勤控除を受けた。

(六) 逸失利益 金五、五一七、一六二円

原告上田は、本件事故当時二三歳の健康な女性で訴外会社に勤務していたが、前記後遺障害のため、以後四〇歳までの一七年間、労働能力の三〇パーセントを失うこととなつた。原告は、訴外会社の不動産開発課に一般事務職として勤務していたが、前記後遺障害により接客等の事務に支障をきたし、事故前は宅地分譲現場における案内等の仕事をしていたが事故後は他の職員に代つてもらつており一般事務についても自己の顔面貌醜状が気になり能率は低下しているし、又結婚後の家事労働にも支障をきたすことは明らかである。

そして昭和五二年度賃金センサスによる全女子労働者の平均年収金一、五二二、九〇〇円をもとにホフマン方式により中間利息を控除して前記期間中の逸失利益を計算すれば金五、五一七、一六二円となる。

(七) 慰藉料 金五、〇〇〇、〇〇〇円

前記傷害の部位、程度、後遺障害の内容その他の事情を考慮すれば慰藉料の額は金五、〇〇〇、〇〇〇円が相当である。

(八) 損害の填補

(1) 原告上田は、自動車損害賠償責任保険により傷害保険金一、〇〇〇、〇〇〇円、後遺障害保険金六、二七〇、〇〇〇円を受領した。

(2) 原告上田は、労働者災害補償保険法により、療養補償給付金一、一一一、〇五〇円、障害補償給付金一、〇六〇、〇〇〇円を受領した。

(九) 弁護士費用 金四五〇、〇〇〇円

原告上田は、弁護士である本件原告ら訴訟代理人に本訴の提起及び追行を委任したが、その費用として金四五〇、〇〇〇円を要する。

4 原告澤田の損害

(一) 車両損害 金四一三、〇〇〇円

原告澤田は、原告車を所有していた。そして本件事故により原告車は大破しその用をなさなくなつた。原告車の本件事故当時における価額は金四一三、〇〇〇円である。

(二) 弁護士費用 金五〇、〇〇〇円

原告澤田は、弁護士である原告ら訴訟代理人に本訴の提起及び追行を委任したが、その費用として金五〇、〇〇〇円を要する。

5 結論

よつて被告に対し、原告上田は本件事故による損害賠償金四、一〇〇、三九一円及び内弁護士費用を除いた金三、六五〇、三九一円に対する不法行為の日である昭和五三年六月一日から、内弁護士費用金四五〇、〇〇〇円に対する本件口頭弁論終結の日の翌日である昭和五七年六月二二日から各支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、原告澤田は、本件事故による損害賠償金四六三、〇〇〇円及び内弁護士費用を除いた金四一三、〇〇〇円に対する不法行為の日である昭和五三年六月一日から、内弁護士費用金五〇、〇〇〇円に対する本件口頭弁論終結の日の翌日である昭和五七年六月二二日から各支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める。

二  被告の答弁

1 請求原因1項(一)乃至(六)の事実は認める。同項(七)の事実は知らない。原告上田の症状は昭和五四年三月一〇日頃に固定しており、それ以後の治療は不必要であつた。

2 同2項(一)の事実は認め、同項(二)は否認する。

3(一) 同3項(一)乃至(五)、(七)、(九)は知らない。

(二) 同項(六)は否認する。原告上田は本件事故当時、事務職として勤務していたものであり、したがつて原告主張の如き後遺障害により労働能力が失われることはあり得ない。原告上田は、本件事故後も訴外会社から、従来通りないしはそれ以上の給料を支給されている。

(三) 同項(八)は認める。

4 同4項は知らない。

三  被告の抗弁

1 被告の無過失

本件事故は、原告上田の、被告車が後退で公道に進出して来るのを発見しながら被告車が停止したものと軽信し、被告車の動静に注意せず漫然と進行した過失により発生したものであり、被告には過失がない。

2 過失相殺

仮に被告に過失があるとしても、前項のとおり原告上田にも過失があるので損害額の算定にあたつては過失相殺がなされるべきである。

3 損害の填補

原告上田は、原告主張以外に、労働者災害補償保険法により、休業補償給付金一七二、三〇四円、休業特別支給金五七、四〇五円、障害特別年金二七四、二三二円を受領している。

四  抗弁に対する原告の答弁

抗弁1、2項は否認し、3項は認める。

(反訴)

一  請求原因

1 交通事故の発生

(一) 発生日時、場所、態様は本訴請求原因のとおりである。

(二) 加害車 原告車

(三) 右運転者 原告上田

(四) 被害者 被告

(五) 結果

本件事故により、被告所有の被告車後部が破損した。

2 責任原因

本訴における被告の抗弁1項記載のとおりである。

3 損害

(一) 修理費 金四七八、〇〇〇円

被告は、被告車の破損個所の修理のため金四七八、〇〇〇円を要した。

(二) 評価損 金一四三、〇〇〇円

本件事故による破損のため被告車の価値が下落したが、その額は前記修理費用の三割に相当する額である。

(三) 弁護士費用 金五〇、〇〇〇円

被告は、本件反訴の提起及び追行を弁護士である被告訴訟代理人に委任したが、その費用として金五〇、〇〇〇円を要する。

4 結論

よつて被告は、原告上田に対し、本件事故による損害賠償として金六七一、〇〇〇円及びこれに対する不法行為の日である昭和五三年六月一日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  原告上田の答弁

1 請求原因1項(一)乃至(四)は認め、同項(五)は知らない。

2 同2項は否認する。

3 同3項は知らない。

三  原告上田の抗弁

1 被告は本件事故発生当時から、自己の損害及び加害者が原告上田であることを知つていた。

2 よつて事故後三年の経過により被告の損害賠償請求権は時効により消滅した。

四  抗弁に対する被告の答弁

抗弁2項の主張は争う。

五  被告の再抗弁

1 債務の承諾

本件事故による損害賠償の支払については、昭和五三年一二月以降、富山県自家用自動車協会の市田課長の仲介により交渉が行われていた。その過程で原告上田は、昭和五四年春、被告に対する本件事故による損害賠償債務を承認した。

2 権利の濫用

右交渉は被告の損害をも含めてなされていたものである。

したがつて原告上田の消滅時効の援用は権利の濫用であり又信義則上許されない。

六  再抗弁に対する原告上田の答弁

1 再抗弁1項の債務承認の事実は否認する。

2 同2項は否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一  交通事故の発生

1  本訴請求原因1項(一)乃至(六)、反訴請求原因1項(一)乃至(四)の事実は当事者間で争いはない。

2  原告上田の受傷

原本の存在及びその成立に争いのない甲第二乃至第七号証、成立に争いのない甲第一八乃至第二〇号証、第二二号証、第二八乃至第三〇号証の各一乃至四、第三一号証の一、二、原告上田敦子本人尋問の結果を総合すれば、本件事故により、原告上田は、顔面(額中央部、右眼周囲)挫創、右上肢、両膝部打撲擦過傷、右膝関節内側々副靱帯損傷、頸部捻挫等の傷害を受け昭和五三年六月一日から同月五日まで藤木病院に、同日から同年八月四日まで富山市民病院に、同日から同月一八日まで太田外科病院にそれぞれ入院し、同月一九日から昭和五四年二月九日までの間に一〇七回太田外科病院へ通院して治療を受けたこと、又前記顔面挫創部右上腕、右膝に著しい醜状の瘢痕が認められ、右瞼が瘢痕のため癒着し開眼制限が生じたため、右期間中の昭和五三年六月一九日から同年一二月六日までの間に九回富山市民病院五福分院形成外科へ通院して形成手術等を受けたこと、しかし顔面の数ケ所に合計全長一九九ミリメートルの著しい醜状の瘢痕を、右上腕に三五ミリメートルの醜状瘢痕を、右膝に三五ミリメートルの醜状瘢痕を残したこと、そして原告上田は、富山市民病院の医師らから東京警察病院形成外科の治療技術が最高水準にある旨を聞いたことから、右醜状瘢痕の治療を同病院で受けることとし、昭和五四年四月六日から同月一〇日まで、同年七月一三日から同月一七日まで、同年一〇月三〇日から同年一二月四日まで、昭和五五年四月一四日、一五日と四回同病院多摩分院に入院して形成手術を受け、又その間一〇回同分院へ通院して治療を受けたこと、その結果、前記醜状瘢痕は長さが短くなり、幅も細くなるなどし、やゝ良くなつたこと、しかし顔面に長さ延べ約一七センチメートル、右腕、下肢に長さ延べ約六センチメートルの線状瘢痕を残したことが認められる。被告は、昭和五四年三月一〇日以降の治療は不必要なものである旨主張するが、原告上田は前記のとおり醜状瘢痕を残し、特にそれが顔面にもあり、且つ原告上田敦子本人尋問の結果により認められる原告上田が当時二四歳の未婚の女性であつた事実によれば本件事故により生じた醜状瘢痕の治療は必要な治療と考えられる。

3  原告車の破損

原告澤田榮二本人尋問の結果によれば、本件事故により原告車は大破し使用不能となつたことが認められる。

4  被告車の破損

被告本人尋問の結果及び争いのない本件事故の態様を総合すれば本件事故により被告車は後部等が破損したことが認められる。

二  責任原因等

1  本訴請求原因2項(一)の事実は当事者間で争いはない。

2  成立に争いのない乙第一乃至第五号証、第六号証の一、二、第七号証、警察における昭和五三年六月一日の実況見分の際に本件現場附近を撮影した写真であることが当事者間に争いのない乙第六号証の三乃至八、原告上田敦子及び被告各本人尋問の結果、検証の結果を総合すれば、

(一)  本件事故現場は、ほぼ東西に走る幅員六・一メートルの歩車道の区別のないアスフアルト舗装のされた県道と、その北側にある被告宅から県道に出る幅員二・八メートルのコンクリート舗装のされた私道とがほぼ丁字形に交わる交差点であること、右県道の右交差点から東方約二〇〇メートルの間はほぼ直線であること、私道の東側、県道の北側部分(右交差点の東北部分)は石材置場となつており、本件事故当時一乃至一・八メートルの高さに庭石が積んであり、私道からは、県道の東方への見通しは悪く、県道上の交通の安全の確認はほとんどできない状態であつたこと

(二)  被告は、被告車を運転し私道から県道へ出るため、後退で進行したが、県道を一台の自動車が西進しているのを認め、被告車後部が交差点より約三・二メートル北側にきた地点で一時停止し右自動車の通過を待つたこと、そして再度発進し、時速約三乃至五キロメートルの速度で後退し、県道上で方向転換して西進すべくハンドルを右に切りながら交差点に進入したこと、その際交差点の西北角にある電柱を支えている鉄線との接触を避けるためその方に気をとられ、県道東方には注意していなかつたこと、そして被告車後部右端が県道北端より約二・三五メートル附近まで進行した際、西進してきた原告車前部と被告車後部とが衝突したこと、被告は衝突するまでの間原告車に気付いていなかつたこと

(三)  原告上田は、原告車を運転し、時速約四〇キロメートルの速度で県道を西進していたが、前方約四七メートルの地点に後退で交差点に進入しかかつている被告車後部を発見したが前記速度のまま進行し、約一六メートル進行した地点で交差点に進入した被告車が停止したものと認識し、前記速度のまま進行したこと、そして約二四メートル進行した地点で被告車が進行し西行車線に進入しかかつているのに気付いたがブレーキを踏む間もなく衝突したこと

が認められる。ところで前掲各証拠によれば、原告上田は、被告車が一時停止した旨供述しているのでこの点につき判断するに、前記認定のとおり被告は衝突するまでの間原告車に気付いておらず、又他に被告車が一時停車すべき事由も認められないし、検証の結果によれば、原告車が約四五メートル進行する間に被告車は約四メートル進行しており、これと前記認定の原告車及び被告車の速度を考慮すれば被告車が一時停止したものとは認められず、これらの事実に前掲各証拠を総合すれば被告車は一時停止することなく進行していたものと認められる。

以上によれば、本件事故は、被告の、被告車を運転して後退で私道から県道へ進入するにあたり、県道東方は見通しが悪いのであるから誘導者を付ける等して県道上の交通の安全を確認すべき義務があるのにこれを怠り被告車左方に気を取られ右方(県道東方)の交通の安全の確認を怠り県道上に進入した過失と、原告上田の、原告車を運転して県道を西進中、前方に後退で県道に進入して来る被告車を発見したのであるから、警音器を吹鳴して原告車の接近を知らせ、一時停止或いは徐行すべき義務があるのにこれを怠り被告車が停止したものと誤信して時速約四〇キロメートルの速度で進行した過失とにより発生したものと認められ、その過失割合は原告上田がほぼ三割、被告がほぼ七割とするのが相当である。

三  原告上田の損害

1  治療費 金二、二一一、八二七円

原本の存在及びその成立に争いのない甲第八号証、第九号証、第一二乃至第一四号証、成立に争いのない甲第一〇号証、第一一号証、第二一号証、第二八乃至第三〇号証の各一乃至四、第三一号証の一、二、原告上田敦子本人尋問の結果によれば、原告上田は、本件事故による前記認定の傷害の治療のため、藤木病院において金一二八、七二〇円、富山市民病院(五福分院を含む)において金七九二、〇七二円、太田外科病院において金六七八、九三〇円、東京警察病院において金六一二、一〇五円合計金二、二一一、八二七円の治療費を要したことが認められるが、右を越える金額(特に太田外科病院において)の治療費を要したとの事実を認めるに足る証拠はない。

2  付添看護費 金二一、〇〇〇円

前掲甲第三号証、甲第一八号証によれば、原告は前記認定の入院期間中の内、昭和五三年六月一日から同月七日までの七日間付添看護を要したことが認められるところ、その費用は一日につき金三、〇〇〇円合計金二一、〇〇〇円が相当である。

3  入院雑費 金四八、〇〇〇円

入院にともない雑費が必要となることは公知の事実であるところ、前記認定の昭和五三年六月一日から同年八月一八日までの入院及び東京警察病院への入院による雑費は一日当り金五〇〇円合計金四八、〇〇〇円が相当である。

4  交通費 金二八五、六〇〇円

成立に争いのない甲第二七号証、原告上田敦子本人尋問の結果によれば、前記認定の東京警察病院での治療のための原告上田自身の富山からの交通費、医師から手術の際に付添看護を求められたため原告上田の実母が付添看護のため上京した交通費として合計金二八五、六〇〇円を要したことが認められる。

5  休業損害 金七七、六三九円

成立に争いのない甲第二五号証、乙第一一号証、原告上田敦子本人尋問の結果によれば、原告上田は、本件事故当時、訴外会社に一般事務職として勤務していたが、本件事故による傷害の治療のため昭和五三年六月一日から同年八月三一日まで欠勤し、そのため昭和五三年の年末賞与が金七七、六三九円減額されたことが認められる。

6  逸失利益

原告上田は、前記後遺障害のため労働能力の三〇パーセントを失い、それにより将来の得べかりし利益が得られなくなつた旨主張するところ、前掲乙第一一号証によれば、原告上田は、訴外会社から本件事故後も本件事故前と変らぬ給与の支給を受けていたことが認められ、原告上田の職種が前記認定のとおり一般事務職であつたこと、又成立に争いのない乙第三二号証、原告澤田榮二本人尋問の結果によれば、原告上田は昭和五七年五月六日に上田稔と婚姻して訴外会社を退職し家庭人として家事労働に従事していることが認められ、これらの事実に前記後遺障害の部位内容を考慮すれば、前記後遺障害によつて労働能力が失われたとは認められず、この点に関する原告上田の主張は失当である。

7  過失相殺

以上認定の財産上の損害額につき前記認定の過失割合に基づき過失相殺すれば、被告が負担すべき額は金一、八五〇、〇〇〇円となる。

8  慰藉料 金四、五〇〇、〇〇〇円

前記認定の本件事故による原告上田の傷害の部位、程度、治療経過、後遺障害の内容、原告上田が女性であること及びその年齢、当事者双方の過失割合その他の事情を考慮すれば、原告上田の精神的苦痛を慰藉すべき額は金四、五〇〇、〇〇〇円をもつて相当とする。

9  損害の填補

原告上田が、自動車損害賠償責任保険により傷害保険金一、〇〇〇、〇〇〇円、後遺障害保険金六、二七〇、〇〇〇円を受領し、又労働者災害補償保険法により療養補償給付金一、一一一、〇五〇円、障害補償給付金一、〇六〇、〇〇〇円、休業補償給付金一七二、三〇四円、休業特別支給金五七、四〇五円、障害特別年金二七四、二三二円を受領したことは当事者間に争いがない。

そうすれば右金九、九四四、九九一円の受領により原告上田の損害は全て填補されたことになる。

四  原告澤田の損害

1  車両損害 金四一三、〇〇〇円

成立に争いのない甲第二四号証、原告澤田榮二本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告車は、昭和四九年式のトヨタ自動車製の乗用自動車であり、原告澤田が昭和四九年一一月頃に買入れたものであること、そして本件事故当時の価額は金四一三、〇〇〇円であつたことが認められる。

2  過失相殺

原告上田敦子及び同澤田榮二各本人尋問の結果によれば、原告上田は、原告澤田の実子であり、本件事故当時は未婚で、原告澤田と同居して訴外会社に勤務していたこと、そして本件事故当時、原告車は、もつぱら原告上田の通勤用として使用されており、原告澤田が使用することはほとんどなかつたことが認められる。右事実によれば、原告澤田の原告車の破損による損害賠償額の算定にあたつては、原告上田の過失を、いわゆる被害者側の過失として斟酌して過失相殺するのが公平の理念に合致するものと解される。

そこで右損害額につき前記過失割合にもとづき過失相殺すれば被告の負担すべき賠償額は金二八九、〇〇〇円となる。

3  弁護士費用

原告澤田が、本件訴の提起及び追行を原告ら訴訟代理人に委任したことは本件記録により明らかである。

ところで原告澤田榮二及び被告各本人尋問の結果によれば、昭和五四年八月頃から原告両名と被告との間で訴外市田某を介して本件事故に基づく損害賠償の支払につき示談交渉が始められたこと、そしてその交渉の過程で被告から金五〇〇、〇〇〇円を損害賠償として支払う旨の申出がなされたが原告両名はこれを拒否したことが認められる。右事実に前記原告上田の損害が填補されている事実を総合すれば原告澤田の本件訴の提起は結局不必要なものだつたといわざるを得ず、弁護士費用を本件事故による損害として被告に請求することはできないものと解する。

五  被告の反訴請求について

1  前掲乙第一乃至第三号証、被告本人尋問の結果及び本件事故の性質を総合すれば、被告が、本件事故当日、本件事故の相手方が原告上田であること及び被告車が破損し損害が発生したことを認識していたものと認められる。

被告は原告上田が自らの被告に対する損害賠償債務を承認した旨主張するところ、右主張事実を認めるに足る証拠はない。

そして他に時効の中断事由についての主張立証がないので被告の原告上田に対する本件事故による損害賠償請求権は本件事故の日より三年の経過により時効により消滅したものといわねばならない(本件反訴の提起が、右三年を経過した後である昭和五六年一二月一七日であることは本件記録により明らかである。)。

2  被告は、原告らと被告との間で被告の損害をも含めて示談交渉がなされていたので、原告上田の時効の援用は権利の濫用ないしは信義則に反する旨主張するところ、原告の右主張事実からは直ちに時効の援用が権利の濫用ないしは信義則違反となるものとは解せられない。

六  結語

以上により、原告澤田の本訴請求は金二八九、〇〇〇円及びこれに対する本件事故の日である昭和五三年六月一日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、原告澤田のその余の請求、原告上田の本訴請求及び被告の反訴請求はいずれも理由がない。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 寺崎次郎)

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